どんな研究をしているの?

これまで大学院では細胞の働きなどを研究する基礎研究と呼ばれる研究と、人を対象とした研究の臨床研究を行ってきました。基礎研究では、主に炎症や、手術などの侵襲によって生じる臓器の障害に関する研究を行ってきました。また、臨床研究では、手術後に現れる「せん妄」という症状を主に研究していました。「せん妄」に関してはまだ多くのことがわかっておらず、基礎研究で行っていた炎症や侵襲が、脳にせん妄を引き起こしているのではないかと考え、手術の脳神経への影響とせん妄の発症に関して研究を行っていました。
現在は、基礎研究に捉われず、より広い視点で、研究を行っています。
所属領域の院生の研究で、脳神経疾患を罹患した方の生活の困りごとを可視化する尺度の日本語版を作成しており、私自身もこの尺度の必要性を感じ、現在は協働してこの尺度の日本語版を作成しています。
脳神経疾患を罹患することによる障害は、目に見えるものと、見えないものがあります。生活の困りごとは、本人にしかわからない主観的なものも多く、困りごとを理解するのはとても難しいです。そのような生活の困りごとを可視化できる尺度が出来ることにより、より明確に支援できる内容が見つかるのではと考えています。

なぜ看護研究者としての道を選んだのか、志したのか教えてください。

高校生までは水泳と競泳とライフセービングをやっていて、海上保安庁を目指して海上保安大学校へ進学しようかと考えていました。
しかし、ライフセービングは一般的に、アクティブに動いてるイメージですが、監視が主な業務であるため身体を動かしません。トレーニングは行いますが、業務中は実際に動くことはほとんどありません。事故が起きた状況を想定してのトレーニングを多くの時間を割いて行いますが、最も重要なことは事故予防でした。溺れるのを未然に防ぐために、溺れそうな人を動きから推測しながら無線で連絡を取りながら追っていきます。私にはそれと看護の視点が同じに思えました。人の動きや反応から、次に起きることを予測し、予防的に何かをしていくという視点です。医師だったら何か処置をしたり治療をするという視点だと思います。
「男性だったら“医師”と“看護師”どちらか悩んだのですか」と聞かれる多いですが、どちらかというと“海上保安庁”と“看護”の2つで悩みました。
大学で学び看護師として勤務し、その経験を元に研究を行い、最終的に研究も臨床に還元できて面白いなと思い、研究者という道を選びました。

松石先生の研究が社会にどのような影響を与えているのでしょうか。

脳神経疾患を罹患した方の身体・心理・社会的状態のQuality of Life ( 以下QOL ) を客観的な指標の尺度で捉えて可視化していくことに社会的な意義があると思っています。QOLを可視化することで、脳神経疾患を罹患した方のニーズに合わせた支援に繋げていくことができ、本当に必要としているサポートをすぐに提供できる社会ができると考えています。
また、昨今のコロナ感染症罹患後に認知機能の低下が生じることが多く報告されており、脳神経領域でそれらに対する関心が高く、領域長とともにこの研究テーマに取り組んでいます。疾患から回復した後の認知機能低下症状を捉えられるような尺度も日本語版を作成し、国内で生じているコロナ感染症罹患後に認知機能低下を調査していく予定です。これにより、コロナ禍が収束した後の社会において、コロナに罹患し回復した人たちにどのような支援が必要となるかが明らかになると考えています。

松石先生にとって看護学とは?

現場の最前線で働いている看護師たちの実践を科学するのが私たちの仕事だと思います。一つ一つの臨床で行っているケアが、どのように患者さんに影響を与えているのかを明らかにすることで、より良い看護実践が臨床でおこなわれていくと考えています。

これから看護学の研究者を志す方に一言お願いします。

看護学研究は、終わりがないところ、現場で何か起きていることを自分で解き明かしていくところが、すごく面白いと感じています。男性は看護学というイメージはないと思いますが、自然科学と文学的な要素も入っており、研究は奥が深いです。まだまだ研究者も少ないですし、女性と違う考え方や目線が役に立つこともあります。私は性別にかかわらず、男性もぜひ入ってきてほしいと思います。