どのような研究をしているのでしょうか?

じょくそう(漢字で褥瘡と書きます。床ずれとも呼ばれています)や糖尿病の患者さんの足にできる重症な傷(潰瘍)など、なかなか治りにくい傷のことを難治性創傷といいます。普段歩いたり、どこかに体をぶつけたり、座りきりや寝たきりになった際に発生するもので、多くはそのまま自然に治っていくのですが、特に高齢者や糖尿病の方は傷が治りにくいため難治化します。
ここ数十年で創傷被覆材(医療用の絆創膏)や塗り薬が発展してきており、治りやすくなったものの、今なお難治性創傷の方はたくさんいらっしゃって、中には年単位で傷が治らない方もいます。私は細胞の遺伝子発現や、細菌との相互作用などの観点から、創傷の難治化メカニズムを解明し、難治化を予知・予防するための創傷被覆材を開発するための「看護理工学」研究を行っています。看護理工学とは、患者さんが困っていることに対して、基礎研究、臨床研究、そして研究成果を社会に実装するための研究を行う、学際的な研究アプローチです。

どのような経緯で研究者になったのですか?

もともと、「アウトブレイク」という映画を見て、感染症の研究者になりたいと中学生のころに思いました。なんでウイルスは人に感染するのか、そしてそれをどう制御したらよいのか、映画を見る前は全く想像もつかなかったのですが、映画を見てこんな世界もあるのだと感動したのを覚えています。

その後、「抗生物質が効かない」という本を読み、きれいと思っていた病院が実は院内感染の温床になっているということに強く興味を持ちました。感染症のことを考えると、単に生物学的な人間を見るだけでは足りないと考えていたころに、「看護学はサイエンスでありアートである」という文言をどこかで見て、生活者の視点を基盤に、人間を生物学的、精神的、社会的にみる学問に関心を覚え、看護学に進学し、研究者の道に進みました。もともと研究者になりたかったので、大学を卒業してそのまま、指導教員の東京大学真田弘美先生(現在東京大学名誉教授・石川県立看護大学学長)のもとへ進学しました。

研究したことが社会的にどのような影響を与えているのでしょうか

難治化の大きな要因の一つに細菌が作り出すバイオフィルムがあります。バイオフィルムがあると身体はそれに対抗して炎症反応を起こすため、傷が治りません。創部にバイオフィルムがあるかどうかを調べるためには、傷の組織をメスなどで切り取って、特殊な顕微鏡で観察する必要があります。しかし、これには患者さんの苦痛を伴いますし、時間もコストもかかり、一般臨床では行うことが困難です。そこで、創部表面にあるバイオフィルム成分を、メンブレンとよばれるうすい膜に転写して、そのメンブレンを特殊な染色液で染めることで、2分間で創部のバイオフィルムを可視化する技術を企業と一緒に開発しました。この可視化技術を用いることでバイオフィルムがある場所を迅速に把握することが可能となりますので、効果的に創部を洗浄することができ、その結果、創傷の治癒を促進することができました。

仲上先生にとって看護学とは?

人々の日々の健康的な生活を見えないところで支えるような、縁の下の力持ちであることが理想かなと思っています。看護学が発展することで、人々が気付かないうちに健康的な生活を過ごせるようになっている。そんなところまで研究の質を高めていきたいと思います。