どんな研究をしているの?
私は、心理学を使った方法、特に精神療法について研究しています。簡単に言うと、対話を通して心の病気を持っている人たちの困りごとを解決する方法の研究をしています。精神療法は、心理職をはじめとする心の専門家が行うことが多いですが、看護師や他の職業の人でもできることがたくさんあります。私が研究している認知行動療法という方法は、看護の現場でも使えます。看護師は全医療職の約半数を占めているので、看護師がこの方法を使えるようになると、心を健康にする精神療法がもっと広がると思っています。
研究者になってからも、病院での勤務は続けています。研究は、結果が出るまでに時間がかかることが多いですが、病院で患者さんと接することで、患者さんの生の反応や効果がわかるため、研究の成果を早く確認できて、モチベーションを保ちやすくなります。
どのような経緯で研究者になったのですか?
父親も研究者だったので、中高生の頃から研究に興味を持っていました。特に、クローン羊などが話題になった頃に、科学の進歩がどこに向かうのかに関心を抱きました。同時期に、千葉大学出身の看護学研究者のお話を聞く機会があったことと、精神科医の中井久夫さんの「医師が治せる患者は少ない。しかし看護できない患者はいない。息を引き取るまで、看護だけはできるのだ」※引用「看護のための精神医学」(医学書院)という言葉に感銘を受けたことで、看護の道を志すようになりました。私自身、”人が好き”というのも大きかったと思います。
大学院の修士課程では、「脳波」についての研究をしていました。しかし、実際に病院で患者さんがどんな助けを必要としているのかを知らなければ、研究で扱うべき本当の問題はわからないと感じ、千葉大学病院の精神科で働くことに。特に精神看護では、様々な方法を組み合わせて患者さんを支える”多角的なアプローチ”が求められます。薬だけではなく、リハビリテーション、精神療法も必要ですし、社会の中で利用できる支援制度やサービスを利用できるようにすることも大事だと学びました。その中でも「認知行動療法」という精神療法は海外では広く使われているのに、日本ではあまり知られていないことに危機感を持ち、看護師として働きながら、博士課程で専門的な勉強を始めたのです。
研究したことが社会的にどのような影響を与えているのでしょうか
2010年、私が博士課程にいたとき、うつ病に対する「認知行動療法」が、初めて公的医療保険制度として認められました。でも、認知行動療法はまだうつ病以外の病気にはあまり使われていませんでした。そこで、私は「社交不安症」という病気に対して、認知行動療法がどれくらい効果があるかを確認するための研究実験をしました。その結果、効果的であるということがわかり、2016年から社交不安症に対する認知行動療法も公的医療保険制度として認められるようになりました。うつ病以外の病気にも認知行動療法が広がっていったのです。社交不安症への認知行動療法をもっと広めるために、現在はイギリスのオックスフォード大学と共同して、インターネットプログラムの開発と検証を進めています。
吉永先生にとって看護学とは
その人自身が持っている力を最大限に引き出し、目標に向かって、いきいきと進んでいけるよう支援することだと考えています。近代看護の創始者といわれるナイチンゲールは、患者の自然治癒力を最大限引き出せるよう工夫することが看護であると述べています。